手軽な一揆の起こし方

エセ評論家の生活と意見

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が想像以上にタヌキでダイバーシティだったなぁという話

前作、実録モノ任侠ガンダム機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ*1から7年越しに、新作のガンダムシリーズが始まった。日曜午後5時などという滅亡したいにしえのアニメ放送枠を復活させたせいで、1話を録画し忘れた。

g-witch.net

ネタ的な意味でいろいろぶったまげたので、メモしておく。

 

 

1.プロローグ

ネット配信のみの「プロローグ」――第一話の前日譚だ。

ヒロインが、タヌキだった。

そして、マアアさんだった*2

マアアさん、もといタヌキ、もといヒロイン(?)

ビジュアル的にはどう見ても子ダヌキである。

人類には地球を根拠地とするEarthiaと、宇宙に活動の場を移したSpaciaという勢力があり、両勢力間で緊張関係が高まっている、という状況設定である。

大型モビルスーツの開発を巡って、アーシアン系のメーカーが開発した「ガンド」技術を駆使した兵器「ガンド・アーム=ガンダム」は、搭乗者に高負荷をかけるという理由(は建前で、本当は数世代開発ステップを跳躍する高性能が目をつけられた)で、スペーシアン側に支配されたモビルスーツ関連の型式認証(?)等を行う国際機関から取り潰し(物理)に合う。

ガンド技術は、もともと宇宙で人類が活動するための身体補助(置換?)技術で、その技術が軍産複合体企業に買収されてモビルスーツに転用された末の悲劇、ということらしい。

ここら辺は、今までのガンダムシリーズの流れをよく汲んでいる。

特に、平和のための技術を志向しながら軍事転用され戦争の具となるというのは、直近では「00」シリーズが近い。

にしても、第一話から展開がエグい。

ヒロインの子ダヌキ、じゃねぇ「エリー」は、4歳の誕生日の日に家族で暮らすガンダムの研究施設で、スペーシアに襲撃される。

母とガンダムに乗って脱出しようとするや、エリーはガンダムと、テストパイロット(母)では示さなかったような高い精神感応を示す。

脱出した先で待ち受けるスペーシアモビルスーツを、何もわからぬ4歳児がつぎつぎ撃墜して「おたんじょうびのろうそくみたいできれい!!」などとのたまう。

エリーの遠隔攻撃(無自覚)

蝋燭みたいできれいな爆裂を見て喜ぶヒロイン

うん。業が深ぇ(汗

この戦闘でエリーは父を失い、母と逃げ延びる。これがプロローグの最後である。

普通の脚本では憚るだろうところに嬉々として突っ込んでいくのが、本作の脚本家、大河内一楼である。コードギアスなどのシビアでストレスフル、かつハイテンポでハイテンションな作品を生み出した、「ゼロ年代」アニメを代表する作家だ。

 

2.テレビ放送の第一話からは、、、

家族だんらんを一気に戦争の闇に突き落とす、相変わらずクソ重いジェットコースター展開を鼻歌交じりで見せてくれた後の第一話は、要約すれば

機動戦士ガンダム 赤い水星のタヌキ、ウテナ盛り合わせ」

だった。

彗星ではなく水星である。

また、多くの難民の収容キャンプとして期待される作品でもある。

モナー難民(んなぁ。)、ガンダム難民、百合難民(ちさたき・・・)・・・

日本のアニメはまことに度し難い。

 

富野由悠季ガンダムシリーズを創作して以来40年以上が経過して、初めての女性主人公のガンダムである。まぁ、おっさんが描く女性主人公なので、ある意味理想化されたものだろうけどね*3

女性主人公どころか、タヌキとキツネの動物園(きみは、マユ毛とシッポが太いフレンズなんだね!)、というよりなんとまさかの百合展開。ウテナを思い出し熱いものを感じた紳士もいたのではないか。

詰め込み過ぎで処理が追い付かん(汗

ただ、それでもなぜか内容がわかるのは、

水星からの謎の転校生→(からの)→転入初日にツンデレヒロインと出会う→(からの)→操(?)を賭けた決闘

というコッテコテのラノベ展開を地で行ったからである*4

テンプレラノベ展開って、ガンダムでやると結構おもしろいのね。

早くもリアクション芸人としての片鱗を見せる成長したタヌキ

相方は差し詰めキツネか

3.世相はいろいろ映してますな

親と子の物語、戦争と技術の物語、国と国の物語、という軸は、ガンダムシリーズという歌会で作品という和歌を詠むうえで外せない「お題」である。公募文学賞でいうレギュレーションにもたとえられよう。

本作は、母と子の物語(父と子ではないことに注意)に「復讐」という不穏な気配を抱え、ガンダム自体も知性と意思を持つ「家族」であることが暗示される新機軸を打ち出し、さらにダブルヒロインラブロマンスという要素まで入ってくる*5

決闘の行きがかり上、スレッタ(タヌキの方)とキツネの方(ミオリネという。一応。)が、女性同士で婚約者という流れになってしまう。

安定した顔芸のコミュ障タヌキ

困惑するスレッタに、ミオリネは言い放つ。

「水星ってお堅いのね」

「こっちじゃ全然アリよ」

水星ってお堅いのね

これから、やれ夫婦別姓選択制反対だなんだと五月蠅い連中は「地球ってお堅いのね」でだいたい粉砕できそうである。

そんくらいのパワーワードである。

「ウナギカツ重カレーハンバーグ乗せ」*6くらいの胃がもたれること必至のトッピングで、最後の締めを激烈なスパイスで爽やかに(強引に?)終わらせる手腕は、見事である(本気で褒めてる。揶揄ではない)。

いまの日本の世相の中で、表面的ではなくどこまで深く、かつガンダムの「お作法」を積みつつ逸脱して掘り下げていけるか、視聴者を振り回していけるのか。

楽しみな作品が始まった。

*1:ちなみに組長は広島系、武闘派の鉄砲玉は浪花系

*2:中の人が「メイドインアビス 烈日の黄金郷」のマアアさんという、一見ピンクのモフモフでかわいらしく「マァア」とだけ鳴く登場人物(?)と同じである。見た目は癒し系っぽいが、しかしよく見るとケツがやたら汚く近づくと「乾いたウンチを優しくした匂い」がする(公式設定)、右腕の形状がだいぶアレな感じの、知れば知るほどメンタルにキツめのキャラクター。

ヒロイン・リコの大切な友達メイニャンをヨダレ垂らしながらぶっ潰そうとするマアアさん(直後に制裁)


本作プロローグののっけから「ママァ、ママァ!」と母を呼びながら登場するところ、狙ってるんか。

*3:本当のジェンダーの壁を超えるには、監督や脚本に第一線の女性クリエーターを起用することが求められよう。こちらは将来に期待。なお、前作の脚本家ぇ。。。

*4:昔、同じ時期に放映されたB級(小声)ラノベ原作アニメ「学戦都市アスタリスク」と「落第騎士の英雄譚」で、第一話の展開がこの通りにガチ被りしたことがある

*5:あとビジュアルがどう見ても動物園である。え?誰が「けものフレンズ」だって?

*6:黒澤明が、自身が創る映画はこんな風にしたい、と言っていたそうだ