手軽な一揆の起こし方

エセ評論家の生活と意見

Rally Kamuy 2021

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新井選手WRX STIと柳澤選手シュコダ・ファビア

先週はニセコ蘭越でRally Kamuy 2021が開催された。

フォーミュラカーの日本最高峰でF1への登竜門にもなるSuper Formulaシリーズ、GTレースのSuper GTと並び立つ、ラリーの日本最高峰にあたる、全日本ラリー選手権の一ラウンドだ。

参加する選手は日本の一流、さらには世界の一流どこだ。

写真のWRX新井選手は、WRCの製造車部門で世界王者となった実績を持つ、日本最高のラリースト。

彼と長年しのぎを削ってきた奴田原選手、勝田選手などが僅差で死闘を繰り広げた。

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車検場にてJN1クラスの面々

ラリーを含めたモータースポーツは、いかんせん認知度が低い。

せっかくワールドクラスのラリーストたちが公道を駆け抜けても、ほとんどの人はそれが競技中だということすら知らないだろう。もったいない。

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今年から参戦のGR Yaris

さらに追い打ちをかけるのは、「くるま」の問題である。

環境規制のために、ラリーに出場できる車種自体が激減してきている。

近年では、多くがWRX STIを持ち込むか、でなければFRのTOYOTA 86くらいで、他の選択肢はなかった。

昔のIMPREZA WRX STI v.s. LANCER EVOLUTION 対決など、もはや見られなくなってしまった。

昨年トヨタWRCでの決戦兵器として市場に投入したGR Yarisなどは、今の時代発売されることが奇跡のような車である。

そんな中今回優勝したのは、件の今年デビューしたGR Yarisであった。

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優勝したGR Yaris勝田車

昨年市販が開始された新型車両で、熟成の進んだWRXや、FIA R5規程(世界ラリーの改造車規定に準拠した車。要は速い)のシュコダ・ファビアを押しのけて優勝。

このGR Yarisは、来年よりトヨタWRCチーム(TOYOTA GAZOO RACING)でも投入されるとのことであり、今はそのためのデータ収集の意味合いもあるのだろう。

GR Yarisは旧型のVitz(欧州名Yaris)からは骨格が一新されており、ノーマルの新型Yaris(現行モデル)とも違う専用設計である。

ボディ骨格前半はノーマルYarisと同じだが、ボディ後半部はプリウスカローラスポーツなどのCセグメント車のものを用いている。要するに骨格のニコイチである。

このようなことができるのは、トヨタのTNGA(Toyota New Global Architecture)の製造プロジェクトによる。

すでに日産・マツダが先行している分野である。車のボディをフロント、キャビン、リアのパートに分け、各部分をモジュールとして複数パターン設計し、それらを自由に組み合わせて低コストで車種バラエティを増やす。これをモジュール方式という。

一説によればトヨタは、マツダアクセラにTHSⅡハイブリッドを供給した際に、マツダのSKY ACTIVEプロジェクトに基づくモジュールボディの優秀性に衝撃を受け、開発を急がせたという。

そうして出来上がった、名前はYarisだが中身はベツモノ、GR Yaris

こういう車は、これからどんどん少なくなるだろう。

電動化されようがどうしようが構わないが、手に入りやすい価格で走りの面白い車がもっと出てくれば、きっと盛り上がるはずである。

その車自体が何十万台も売れることはなくとも、ブランドイメージをけん引する「フラッグシップ」にはなるのだから(三菱自工が、バランスシートにしか興味のない愚かなる某会長を三菱商事から招いてランエボを絶やし、ブランドの存在感自体がほぼ失われたのは最悪の例だ)。

そういった車は、昨日今日電動カートに毛が生えた程度の車を売り始めたに過ぎないテスラごときには逆立ちしても作れまい。

なぜなら、フラッグシップこそが「WRCトヨタ」という歴史を背負い、その文脈こそがブランドとして重みをもつからだ。歴史と伝説という資産こそは彼らの最大の資産だろうし、それをどう商品開発に活かせるかが、彼ら既存自動車メーカーにとっての肝となるだろう。

最新の液晶パネルを作れたとしても、テレビばかりを作っていたメーカーは、しょせん下請けにされてしまう。液晶パネルを創ることすらしなくても、iPhoneが作れれば、風上で商売ができる。

風上に立って、消費者が欲しいと思う商品を作るために、トヨタWRCの、ホンダがF1の(せっかく5連勝中なのに今年で撤退って・・・)、歴史の文脈をどうやってスパイスとして効かせていくのか?ここからが勝負だ。

 

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ヘイッキ・コヴァライネン選手

一つ下のカテゴリのJN2クラス優勝は、元F1レーサーコヴァライネン選手。シリーズ四連勝中という圧倒的強さである。

しかも乗っているのは四駆ではなくFRの86。さらにターボやスーパーチャージャーの付加はしていない、NAチューンドカ―である。

彼はF1では10年近いキャリアがある。特に2008年にはマクラーレンメルセデスから参戦しており、その年には同僚でファーストドライバーだったルイス・ハミルトンが、デビュー二年目にして年間王者に輝いている。

残念ながらマクラーレンでは十分な成績を残せず下位チームに移籍。しかしそこで、ポイント獲得は難しくも、型落ちマシンで中段勢を食い物にする大立ち回りを何度も演じたいぶし銀のレーサーである。

全日本ラリーでも、四駆より不利なFRでラリーを戦い圧倒的な強さを見せる。

今のF1で、こういう泥臭いタフさをもったレーサー、あまり見かけなくなったような気がする。

ちなみに、彼の車のナンバーはなんと豊橋!!

チームの本拠は豊橋市石巻本町。石巻山のふもとって、昔行ってた幼稚園や中学校の近くかよっ!

そんなところに元F1レーサー擁するチームがあるとは・・・

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86コヴァライネン車とアンヌプリ