1.日本の醜い側面
日本人は人の足を引っ張るのが好きらしい、という話は以前別記事で書いた。
2.今回のお題
今回は、その先のお話である。
外国人の日本での在留資格の中で、最難関にして最優秀の人に与えられるものが「高度人材」というあまりにも露骨な名前のものである。
高所得、高スキルの人材に日本での永住権を取りやすくする(通常10年以上の在留期間を要するが、高度人材は最短3年で永住権取得可)在留資格だ。
これの要件を緩和するという話である。
私個人としては、こうした緩和措置は賛成である。
1)ちょっと横道に逸れて
ただ、高所得で高い能力を持つ人材に日本に居ついてほしければ、相続税の問題を何とかしなければ、結局誰も来ないだろう、とも思う。
日本の税務当局は、日本に在住して死亡した外国人は、死亡の前10年間のうちにのべ5年以上の在留実績があると、その人の全世界に散らばった資産全てに相続税を課税する。全世界資産課税という。
投票権などの完全な市民権を有する日本国民に対してこれをやるなら、権利と義務の均衡の観点からもまだ納得はできるが、永住権を持っている、あるいは在留期間が上記の要件を満たす外国人全てにこのような税金の取り方をするのは、がめつ過ぎはしないか?
日本国民に対しては、自らが主権者として政府に対する市民権(権利)を持っておきながら、市民権の対価としての納税を逃れるために日本から脱出するということを防ぐためにも、全世界資産課税が必要になると考える。しかし、永住者や定住者は、日本国籍を持たない代わりに選挙権もないわけで、であれば税金のディスカウントを認めるのも権利と義務の均衡の観点から妥当と思われる。
2)本題に戻ると
今回の本題は、実はこの政策の是非ではない。
上記の高度人材視角緩和政策についての報道発表に対する、Yahooニュースのコメント欄の莫迦どもの発言である。
記事は期間限定でなくなるため、目にした内容の伝聞を書く。
いいねがされた上位コメント二つを挙げる。
曰く、
1「外国人にばかりかける金があるならば日本人に使うべきだ」
とか
2「外国から高度人材を読んで研究をさせて成果が出たら、高額の特許料を要求されるかもしれない。そうならないためにも、日本人の研究者育成を優先すべきだ。」
3)ヤフコメで狂った発言をする莫迦、それを支持する莫迦
度し難い。
まず1について。
高度人材要件緩和で、国に支出が発生するか?
ノーである。
高度人材緩和政策は、単に「日本に来たい人の中で、短期で永住権取得取得できる人の要件を緩めます」と言っているだけで、何か高度人材に政府が支援するという話ではない。
アプライしたい人は、勝手にどうぞ。要件は易しくするからね。
これのどこが金がかかるのか?
確かに、申請件数が増えれば入管(出入国在留管理局)の審査の手間は増えて残業が増えるかもしれない。しかしその程度である。
国が補助金を出す事業ではない。時事通信の記事を上掲したが、こうした情報から何を読み取っているのか、頭の中身が興味深い発言である。
次に、より深刻なのは2である。
これが今日の本題だ。
曰く、外国人は特許料などの権利主張がうるさいから、そういうのをいわない社畜根性の日本人を育成すべきだ、という。
まともな感覚とは思えない。
要するに何か?
外人はうるせぇけど、日本人はどうせ盾突くことも何もできねぇから奴隷にすればいい、と?
私はこれを見て、日本人の一部が持つ、最も排撃されるべき狂気を見た。
同朋こそはいくら死んでも構わないという、旧軍部の発想である。
4)発言の深刻さ
上記の例ならば、本来なら日本人でも画期的な発明をすれば相応の報酬を得られなければならない。
技術者を軽んじたから、LG、Samsung、Haier、鴻海などに技術者がヘッドハントされ、ライバルの技術力が上がったことをもう忘れたのか。
日亜化学工業で青色発光ダイオード開発に成功した中村修二氏の、会社との特許紛争。オプジーボ開発に成功した、同じくノーベル賞受賞者の本庶佑氏の小野薬品工業との係争。
開発に尽力した人間をないがしろにする企業に、一言もモノを言うなというのか?
話は飛ぶが、インパール作戦の遂行中、悪名高き牟田口廉也ら指揮官は、参謀部の会議で「何人殺せばこの陣地を獲れるか」という議論をしていたという。「何人殺せば」とは、敵兵ではなく自軍兵士を何人犠牲にすれば、という意味だったという。
赤紙一枚、ほぼ郵便切手代だけで人を集めては命を使い捨てにし、自ら判断の誤り、失態は棚に上げて、天皇の権威をいかに笠に着て自らを正当化するかしか考えなかった戦時中の軍部と、上記の発言をする輩の発想と、何が違うのか?
日本人が日本人にこそ冷淡で差別的であることの例はほかにもある。
それは株価に現れている。
5)その他にもある、この国の同胞を犠牲にしたがる異常な傾向
円安になると、基本的に株が上がる。
これこそが異常である。
日本人は、円安になると製造業に有利だから、業績が良くなるだろう、だから株価も上がるはずだ。と考えている。
円安が昂進して輸入物品が高くなりすぎて生活に困る人がいても、なおこういった言説が後を絶たない。
もはやマインドに刷り込まれている。
しかし、これが重大な錯誤である。
6)「円安は製造業に追い風」はウソ
内閣府のウェブサイトを見ればいい。
いまの日本は輸出などほとんどしていない。
それが証拠に、貿易収支はほぼゼロである。
日本の国際収支を大幅に黒字にしているのが「第一次所得収支」である。
これは、海外からの「利子・配当」所得である。
なんだそれは?と思うかもしれない。
「海外子会社からの上がり」だ。
つまり、日本企業は2000年代ころまでは国内から輸出していたが、その後一気に製造拠点を海外に移したため、貿易黒字の吹っ飛んだ分がそっくりそのまま利子配当所得に付け替わったのである。詳細なマクロ経済分析によると、貿易黒字減少分と利子配当所得増加分はほぼ一致するという検証結果もある。
もはや円安になろうが円高になろうが、大手製造業企業はどのみち海外、例えばタイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、ハンガリー、チェコ、トルコ、メキシコなどなどで造っているがために、あまりショックは大きくないはずなのである。
どういうことか?
日本国内で調達から製造まで行っていると、人件費等はすべて日本の物価、円レートに左右される。
しかし、例えばタイでバーツ建てで人を雇い、資材を現地調達してカメラを製造し、完成したものを中国に輸出して元で売ったらどうなるだろうか?
例えばメキシコに系列企業全体で進出し、資材調達・現地人雇用をペソ建てで行い、完成したクルマをアメリカに輸出してドルで売ればどうなる?
そこで問題になるのは、バーツ/(ドル)/元レートの問題であり、ペソ/ドルレートの問題でしかないはずである。
円高だろうが円安だろうが、どうせ現地で働く日本人のマネージャーの数も給料も知れているのだから、ほぼ無視してよいはずだ。
そしてここからのところに、からくりがある。
日本企業はいかにして儲けているか、である。
先述の通り、現地通貨建て製造、消費地通貨建て販売をして得たカネは、最終的に現地法人からの利子・配当収入として日本のヘッドクォーターに持ち込まれる。ここで、円安の時に、製造業の連中はこっそりぼろ儲けをしている。
つまり、ドルで得た販売収益から得たドル建ての現地法人からの配当を、円安時に円転すると、為替で儲かるのである。
自動車や機械、プラントなど製造業各社は、確かに技術者は汗水たらして開発しているのだろうが、実のところ、海外生産によって得た利益を、あたかもFXにブッ込むようにして、円安の為替利益を大幅に享受しているのではないか?
製造業がFXまがいの濡れ手で粟をつかむ行為を促すために、市井の人々の生活を犠牲にするのか?
これが、「円安は善」の虚妄の正体である。
こんなことは10年以上前からわかっていたことだ。
いまようやく、極端な円安物価高で、多少違和感を感じ始めたという程度であろう。
日本経済の実権を握った気でいる連中は、同朋たる日本に住む人々の生活を犠牲にして、自らの利権のために円安の昂進を止めようともしないのである。
7)日本の持つ狂気―同胞を犠牲にし、同胞に犠牲にされることに快感を覚えるのか?
これらすべて、日本人をこそ踏みにじって、犠牲にして何の後ろめたさも感じぬ狂人どもに踊らされた社会の姿である。
そして、軍部の行動原理とのアナロジーからも述べたように、こうした異様な歪みを持った人物は、主に右翼や保守派を僭称する輩に多いという印象を受ける。
天皇を祀り上げる奴ほど、その権威を笠に着て自分の発言を押し通したいだけ、たてまつっておきながらその実あからさまに利用している。結局、自分だけ好き勝手やれればそれでいいという発想が根本にある人間の妄言である。
そうした者に騙されていはいけない。
徹底的に糾弾しなければいけない。
敵は、我々の中に潜んでいる。
「進撃の巨人」で、壁を壊して人類を侵略した巨人が、実は壁の中にいたように。