手軽な一揆の起こし方

エセ評論家の生活と意見

「白い砂のアクアトープ」視聴完了レビュー

aquatope-anime.com

 

1.映像面 11/15

1)キャラクター造形(造形の独自性・魅力・キャラ間の描き分け) 2.5/5

2)人物作画 4.5/5

3)背景作画 5/5

 

2.演出・演技 17/30

1)せりふ回し・テンポ 3/5

2)映像演出・意義のあるカット割り 2.5/5

3)映像演出・人物表情 4/5

4)主役の役者の芝居 2.5/5

5)脇役の役者の芝居 3/5

6)音楽 2/5

 

3.ストーリー構成面 8/15

1)全体構成 2.5/5

2)各話脚本 3/5

3)全体のコンセプトの明確性・各話エピソードと全体構造の相互作用 2.5/5

 

総合スコア 36/60(60%)・・・Bランク

 

Sランク・・・54以上

Aランク・・・45-53.5

Bランク・・・36-44.5

Cランク・・・27-35.5

Dランク・・・18-26.5

Fランク・・・17.5以下

 

「白い砂のアクアトープ」は、夏から半年かけて放送されたP.A.Worksのオリジナル作品。

P.A.Worksには、女性を主人公に据えて、仕事と向き合いながら成長していく姿を描く作品が多い。

先行作品としては、「花咲くいろは」を嚆矢として、ヒット作である「SHIROBAKO」、直近では「サクラクエスト」などがある。

監督の篠原俊哉は本スタジオで指揮を執ることが多く、「凪のあすから」、「色づく世界の明日から」などがある。

 

P.A.Works作品は、基本的には良作が多い印象だが、今回のは辛い評価にならざるを得ない。

 

ストーリーと演出

ストーリー構成と演出の連携に、かなりの課題があったように思う。

最終話近辺で、ダブルヒロインの一人、風花は水族館職員として、より一層環境問題などを勉強することを志し、アメリカへの派遣に臨む。

それまでのプロット一つ一つを追いかけると、風花が人に海の生物の魅力を伝えることに徐々に傾倒していくことはわかる。がまがま水族館での、魚とのふれあいイベントや、小児病棟への出張水族館、かつてのアイドル時代の後輩の番組取材への協力などだ。

こうしたプロットを積み重ねることで、最終話近辺での、近所の海に迷い込んだイルカを子供たちに紹介するプレゼンを経て、彼女が本当にやりたいこと―海の生き物の世界を未来を担う子供たちに伝えること―へと向かわせている。

プロットの積み重ねとしては、正しい方向を向いているはずである。しかし、従前の風花の経験の積み重ねは事実として語られるだけで、各エピソードが彼女の内面にどのような影響を及ぼし、水族館のプロとしてどのような目標に向かわせるのか、どういう気づきやきっかけを与えたのかが、効果的に示されていない。

最終話近辺での彼女の「海の環境問題を子供たちに伝える」という問題意識として昇華されるまでの、彼女の内面の動きが十分に語られてはいないということだ。換言すれば、最終話付近の彼女の問題意識が、唐突に表れた感がぬぐえない。

これは、本作の全体のコンセプトをも曖昧にしたように思う。

ダブルヒロインそれぞれの内面の変化をもう少し表出させる必要があった。その葛藤や成長が可視化されることで、「ついえた夢の跡で、二人が出会う」というサブタイトルに示唆された、本作品のコンセプトを押し出すことができたのではないか。

主人公の内面をどのように表現するか、ストーリーを語っていくうえでどのような配分で描くかは、演出の問題だ。

せっかくプロットとしては積み重ねているのに、風花の内面の変化として描き切れなかったことで、最終話付近の5話くらいの最終フェーズモジュールが、あたかも話をそそくさと「たたみに」いったように見えてしまうのが惜しい。

篠原の先行作品「色づく世界の明日から」は、「時をかける少女」のようなド直球のジュブナイルファンタジーであるが、ゆえにこうした内面の機微をストーリーテリングの中心に据えていたため、最終話付近のクライマックスは素晴らしいものになった。

本作は、こうした部分にちぐはぐ感があったように思う。

 

役者の芝居

P.A.Worksにしては珍しく、芝居があまりよくはなかった(悪くはない)。

このスタジオで芝居を経験した声優、特に新人声優は、見違えるように表現が豊かになることが多い。篠原監督作品「凪のあすから」でヒロインを務めた小松未可子など典型だ。

しかし、本作のヒロイン、特にもう一人のヒロインであるくくるを演じた伊藤未来に関しては、そこまでの印象を持つことはできなかった。

他作品では変幻自在の芝居を見せており、実力はあるはずであるが、本作では喜怒哀楽ともに一本調子な印象がぬぐえなかった。セリフの間合い、いいよどみなどといったバラエティが全体に少なかったように思う。

 

キャラクター造形

P.A.Works作品が克服できていない最大の弱点は、キャラクターの描き分けだと思っている。

先行作品で特に顕著だったのは、「色づく世界の明日から」だ。

ヘアスタイルや体格が違うだけで、顔自体の造詣がほぼ同じキャラクターが複数いる。

本作でも、風花とちゆりなどいくつかのキャラクターで重複が見られた。

P.A.Worksと同じくスタジオとして強い個性を持つトップブランドでは、ufo tableや京都アニメーションなどがある。不思議と彼らの作品は、各キャラのテイストは統一されているが、識別ができる程度の個性の差がある場合がほとんどだ(もっとも、京アニの前髪ぱっつん黒髪ロングの少女は、ほぼすべて「けいおん」の「澪」に見えるという問題があるが)。

 

音楽

P.AWorksの他作品の音楽がよすぎるためか、これも凡庸な印象を受けた。

「色づく世界の明日から」のオープニングに使われたハルカトミユキの「17才」は、メロディもサウンドも素晴らしく、作品の世界観と相乗効果を生んでいる。

しかし、本作品は、特にオープニングについては、アイドルによる歌唱であるが、特に印象を残すことはなかった。作品の世界観に誘うほどの、作品本体との連携や表現の深み等は感じられない。作品の世界観に視聴者を引き込み、盛り上げるのに一役買うまでには至っていない。

 

以上、「色づく世界」や「サクラクエスト」など、認知度は高くないがレベルの高い秀作・佳作が多いP.A.Worksだが、今回は少しプロジェクトとして詰め切れなかったような印象がある。

そういう意味では、こうした作品も、結局はエンジニアリングの賜物なのだと改めて感じさせてくれる。