手軽な一揆の起こし方

エセ評論家の生活と意見

2022春季アニメ終盤暫定寸評

 

1.Aクラス以上の候補

かぐや様は告らせたい

SPY×FAMILY

パリピ孔明

サマータイムレンダ

 

2.雑感

ジャンプ系の原作モノが強い。

「かぐや様」、「SPY」、「サマータイム」はいずれもジャンプ系レーベルだ。

「かぐや様」

「かぐや様」は、シリーズ三期目で、スタートから4年ほどを迎える。

毎回ラインの既読スルーやテーブルゲームなどのくだらないネタを使いながらも、よくもまぁあれだけ話を膨らませられるものだと感心するコメディで、スラップスティックではなくコントのようなネタ展開だ。このシリーズがここまで長く人気を保ち続けるのは、ネタ展開のうまさだけではなく、キャラクターの掘り込みの深さもある。皮相的なキャラと見せかけて、細かすぎる設定を背後に用意し、人物像を周到に設定している。一人一人が破綻なく動く一方で、意外な一面を違和感なく見せるところに、「キャラの絡み」だけで見せようとする昨今の作品を乗り越えた質の高さを感じさせる。

myanimelist.net

海外サイトだが、シリーズ三期目でむしろ人気評価ともに上昇するというのは、極めて異例だ。普通ならばシリーズを追うごとに視聴者が減っていくからだ。

ここに「かぐや様」シリーズの特異な強さがわかる。

パリピ孔明

パリピ孔明」は、異世界転生モノの亜種だが、転生するのが凡人ではなく諸葛亮という超人である。異世界転生モノと、Fateシリーズの英霊召喚モノのミックスか。諸葛孔明が司馬仲達との決戦を前にしながら死して、なぜか現代の渋谷に転生し、なぜかクラブハウスで歌う売れない歌手の才能にほれ込み彼女の「軍師(?)」となって音楽業界の天下泰平(??)を目指すという要約すると意味が不明な筋書きである。

着想はぶっ飛んでおり、他方ストーリーには破綻がなく、「売れない歌手のサクセスストーリー」というド定番(ハリウッドが大好きなヤツですな)として見やすい作品に仕上がっている。

最近のP.A.Works作品には、脚本展開に若干ムラ、というか弱点があるように思われる。本作はP.A.Worksにしては珍しい原作マンガのアニメ化のため一概には言えないが、中盤でラッパーのKABE太人の復活ストーリーに入って以降、テンポ感が悪くなった。また、中盤最も重要なシーンである、KABEが孔明に煽られてラップバトルに乗る(という状況が字面だけでは意味不明だが)くだりは、それまでかたくなにラップの舞台に戻ることを避けていた彼が、一シロウトである孔明に煽られただけで再び舞台に戻っていくというシークエンスに、やや弱さを覚える(尤も孔明はラップそのものをも愚弄するような言い方で煽ったわけだが)。おそらくKABEはラップをやめてから数年間、素人に煽られてもラップを避けてきたであろうに、なぜそこは素直に挑戦を受けたのか。もう一押しあってもよかったかもしれない。

SPY×FAMILY」

非常に一般受けしやすく、またそれを間違いなく狙った作品でもある。

鬼滅の刃」で走者一掃特大ホームランを打ち、「呪術廻戦」で2ランホームランとジャンプお得意のバトルもので立て続けに大ヒットさせた次は、ホームコメディ×スパイアクションという誰もが安心して見られるコンテンツで攻めてきた。

名うてのスパイ「黄昏」ことロイドが、対象に接近するために子供を利用すべく孤児を養子にし、さらに偽装結婚までして偽装=疑似家族をつくる。ところが、妻役のヨルは実は「茨姫」という暗殺者の裏の顔を偽装するという隠れた目的を持っており、さらに娘役のアーニャは国家の秘密研究機関に「人の心を読む」超能力を植え付けられたのち、脱走して孤児になったという隠された過去があった。そうして人には言えない秘密を抱えた三人は疑似家族を演じ、演じるうちに徐々に本当の「家族」になっていく・・・?

よくこんな無茶な設定考えたと思う。

spy-family.net

ヲタクが熱中するタイプの作品ではないが、コメディとして、ホームドラマとしてストーリーがしっかりと作りこまれており(あれスパイ要素どこ行った)、ストーリーテリングの設計はかっちりとレベルが高い。一方、テンポをよくするために割り切ったご都合主義設定を使う(ロイドが一瞬で変装するところとか)。しかし、それがかえって小気味よいのは、こうした展開を許容して見る作品ですよ、という作風の緩やかさが作り出す一定の「コード」があるからだろう。

とか何とか言ってみたが、詰まるところ、とにかくアーニャちゃんが面白かわいいので万事OK。そういう作品だ。アーニャはアニメ史に残る大正義だと思う。

サマータイムレンダ」

summertime-anime.com

今期個人的ナンバー1の可能性が高いのがこれだ。

和歌山県の「日都ヶ島」(実在の「友ヶ島」がモデル)を舞台にした、ミステリ・ホラーだ。古くからの言い伝えで、島特有の「影の病」が流行りはじめ、影に姿を写し撮られた者は死ぬ、というものがあった。主人公は幼馴染の水難事故死の後の葬儀のため東京から島に戻るが、死んだ幼馴染の死には他殺を疑う跡があった・・・

作品の引きと溜めの作り方といい、「影の病」と「タイムリープ」という設定といい、多くの要素を詰め込んでギチギチながらも破綻なくまとまっている。

作者は「ジョジョ」シリーズの荒木飛呂彦の弟子とのことだが、なるほど確かに全体の仕掛けやタイムリープ能力など、ジョジョ第四部の「ダイヤモンドは砕けない」シリーズを想起させるものもある。タイムリープ能力は吉良吉影の「バイツァ・ダスト」、物語のカギとなる作家南雲龍之介の活躍は「ダイヤモンド」の作家岸部露伴のそれに比定しうる。しかしこれらは、所詮は作品の小道具に過ぎない。

ジョジョシリーズと違った独自性の最たるものは、この作品世界の持つ「空気」だ。夏の和歌山、紀淡海峡に浮かぶ離れ小島の、むしむしとした湿気、強く照り付ける太陽。そして登場人物みなが話す和歌山弁。小説でもそうだが、においや湿度、光や温度、さらに風習や考え方などといった、舞台の世界観は見る者を引き付ける非常に重要な要素だ。この作品には、作者自身の出身地である和歌山の濃密な空気が描きこまれている。それを感じるだけでも値打ちがある。この世界観に包み込まれているからこそ成立するストーリーであり、その点で作品自体の組み立て方がジョジョと全く違うといっていい。

ヒロインの一人を演じる白砂沙帆は和歌山出身の新人のようで、本物の澪と「影」の澪をよく演じ分けているし、ネイティブならではのテンポの良い関西弁、とりわけのんびりとした和歌山弁をしゃべってくれる。

他にも花江夏樹ら東京出身のキャストも、拙さはあるものの、いい加減なテレビドラマなどよりよほど関西弁をきちんと演じ話しているのも好感が持てる。

この作品は中盤の山場まで視聴したが、今後の展開もこの質を維持してくれることを願う。